インタビュー
漫画家・佐藤秀峰さん

AIの登場で、漫画の未来はどう変わる? 漫画家・佐藤秀峰さん

技術の進化とともに、私たちの創作環境も大きく変わりつつあります。特にAIの登場は、漫画制作にどのような影響をもたらすのでしょうか?
漫画家の佐藤秀峰さんにAI技術と創作(クリエイティブ)の関係についてインタビューしました。業界の意見はどう分かれているのか、AIはどこまで活用可能なのか、そして佐藤さんが考える漫画など創作活動の「人間らしさ」とは何か。これからの時代を担う皆さんと一緒に、クリエイティブの未来を考えていきましょう。

インタビュー風景
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マンガ制作におけるAIの可能性

佐藤さん、最近AIに関する問い合わせが増えているとお聞きしました。漫画制作において、AIの活用についてどのように感じていますか?

そうですね、確かにAIをどう活用できるかという問い合わせは増えています。でも、正直なところ、漫画家の間ではまだAIに対して抵抗感が強い印象がありますね。特にイラストレーターの方々は、AIに仕事を奪われるのではないかという不安を持っているように感じます。

漫画業界で実際にAIを取り入れているケースはあるのですか?

まだ積極的に取り入れているところは少ないですね。僕自身も今のところはAIをあまり使っていませんが、その進化には注目しています。例えば、デジタルで描く際に写真を加工して背景を作ることはありますし、AIがさらに進化すれば、より創作の可能性を広げられるかもしれません。ただ、線のニュアンスやタッチは手描きならではの表現があるので、そこは大切にしたいですね。

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「AI」と「手描き」の違い

AIが作るものと、手描きの漫画の違いは具体的にどのようなところに​ありますか?

一番の違いは「主観性」ですね。AIが作るものは、すごく客観的で均一な仕上がりになってしまう。一方で、人間が描くと無意識のうちに個性や感情が出る。それが作品の味になるんです。

AIが生成する文章を読むと「妙に客観的だ」と聞いたことがあります。人間が選ぶ言葉には、もっと細かい感情や意図が含まれているんですが、AIにはそれが難しいのでしょうか?

そうなんですよ。例えば漫画で「かけ網」という技法があるんですが、AIに任せると表現が均一になってしまって、どうしても手描きのような細かいニュアンスが出ない。結果として、すごく綺麗だけど、どこかのっぺりした感じになってしまうんです。

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漫画家が求める「リアリティ」とは?​

佐藤さんの作品には、リアリティを大切にする姿勢があると感じました。そのこだわりはどこから来ているのでしょうか?

漫画の世界って、例えばミステリーものだとやたらと人が死んだりするじゃないですか。でも、実際の生活ではそんなに頻繁に事件は起こらないですよね。僕はそういう非現実的な部分をできるだけ減らして、本当にありそうな世界を描きたいんです。

そのこだわりが、AIと対極にある気がしますね。AIはデータをもとに何かを作りますが、佐藤さんが求めているものは「人間の主観を通じたリアリティ」なんですよね。

まさにそうです。漫画の作画スタッフにもよく言うんですが、「本物を参考にするのはいいけど、そのまま描いてほしくない」と伝えています。ただ現実をなぞるのではなく、自分の目を通して見たものを解釈し、そこに感じた空気感や温度まで表現することが大事なんです。例えば、街並みを描くときでも、単に写真を模写するのではなく、その場所が持つ雰囲気や時間の流れ、そこにいる人々の気配まで感じ取ってほしい。リアリティとは、単に正確さを追求することではなく、そこに生きる人の視点を持つことだと思っています。それこそが漫画家としての個性につながり、作品の面白さや醍醐味になるんです。ただ事実を描くだけではなく、自分なりの解釈を加えることで、読者の心に残る表現が生まれる。だからこそ、リアリティの追求は単なる再現ではなく、創作の本質そのものだと僕は思っています。

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未来思考のAIとの向き合い方

これからもAIの進化は止まらないと思いますが、​今後、漫画業界でAIをどう活用していくのが理想だと思いますか?

僕は「使えるものは使えばいい」と思っています。AIを完全に拒絶するのではなく、どう上手く取り入れるかを考えるべきですよね。例えば、背景や資料作成の補助には活用できると思います。

確かに。適切な形で導入すれば、作業の効率化につながる部分は多いですよね。

そうですね。結局のところ、AIがどれだけ進化しても「自分で描きたい」という気持ちはなくならないんですよね。絵を描くことそのものが楽しいし、そこにしか生まれない表現や感覚がある。ペンを走らせることで生まれる線の揺らぎや、偶然生まれる表現の妙を楽しむのは、漫画家としての醍醐味のひとつです。だから、AIはあくまで補助的なツールとして使うのが良いと思います。AIに頼りすぎると、その楽しさや創作の喜びが失われてしまうかもしれません。

まさに「使う側の意識次第」ですね。今日はとても興味深いお話をありがとうございました!

こちらこそ、楽しかったです!

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